ハリーのしっぽ > 二人暮らしの方程式
●最近、死ねとか殺すとか、そんな物騒な言葉が会話に並ぶ我が家である。
最初のうちは「可愛いなぁ」とか思っていても、時間が経つにつれだんだん憎らしくなり、相手が図に乗り調子こいて人の領域に土足で入り込もうとして来た日にはもう、お逝きなさいどころの話ではなくなるのである。一つ屋根の下に居ると思うと、無視できないのがツラいところ。
そう、無視だけに、虫。戦う相手は「虫」なのである。
そしてこれは、一応、ダジャレのつもりなのである。
先日、玄関前で死んでいた虫にアリの大群が群がっていた。どうしたものかと考えた時、そういえば昔、母親がアリの大群に熱湯をかけて処分してたなぁ、、、なんてことを思い出し、同じようにして一網打尽にしたのだけれど。その話を会社から帰ってきたブランドンに「いいことしたでしょ」的に話したら、「なんて可哀想なことを...」と苦笑気味に呆れられ、逆にこっちが面食らってしまったのだった。だってさ、あんなのが家の中に入ってきたら大変だよ?と理解をとりつけようにも、「小さくて可愛いじゃん」と、話を聞く気、全く無し。うちの偽ナウシカには、風の谷を守る気などこれっぽっちも無いようであった。●ところが。昨日、その状況がガラっと変わったのである。
種から大事に育ててきたグレープフルーツの葉が、虫に食われていたのを見つけてしまったのである。

よく見ると、その近くにイモムシみたいなのがニュロニュロと闊歩しているではないか。昼間、鉢を外に出した時についてきやがったのかこのやろう。
とにかく葉を食われたショックが大きくて、そいつをどうにかする前に葉の写メをブランドンに送り、状況を伝えてみたのだったが。ほどなくして返ってきたメールは、こうであった。
「ぶっ殺せ!その馬鹿野郎!!!」
それは、ナウシカが巨神兵に生まれ変わった瞬間であった。
しかし、殺せと言われても僕は虫が大の苦手である。とりあえず近くにあった新聞のチラシでその虫をすくい上げ、庭にポロっと捨てるのが精一杯であった。すると今度は電話が鳴り、「殺した?」と。何?殺してない?ダメだよまた食われてしまうから、ちゃんと殺してよ。とかなり強力に言われてしまったので、、、玄関から持ってきた彼の靴で踏みつぶして、あの人が夜帰ってくるまでその靴はそのままにしておいたのだった。
一応、言いつけは守りました、ってことである。
で、それ以上にすごいのが、蚊である。一歩外に出ると、待ってましたとばかりに蚊の大群にやられるおかげで、大袈裟な話ではなく全身傷だらけである。なぜか刺されるのは僕だけで、「血が汚い人が刺されやすいらしいよ。ケケケ」とブランドンは笑っていたのだけれど、そのケケケも最近刺されるようになってきたものだから、いよいよ二人の本気度は最高潮に上がってきたのだった。
準備、完了。

二人とも、参考書を買っただけで勉強が出来た気になるタイプ。
数々の武器を前に、すでに勝ったつもりでいるのである。
●最近、床の雑巾がけをするようにしているのである。
以前はウェットタイプのクィックル的なものを使っていたのだけれど、どうも納得のいく使い心地が無い。最初のひと拭きでいきなり役目が終わってしまうというか、1枚のシートでキレイに出来る範囲が極端に狭いような気がするのである。あれはとても不経済。いや、たとえそのシートが100円ショップで買ったものだとしても、ゴミだけ増やすようなもので無駄なこと極まりないのである。
セコいのではない。
エコなのである。
イテテ、と起き上がる朝。
自分的にはこの痛みで結構充実感を味わえているわけだけれど、隣の民にはこのこだわりようが理解できないらしくて。
「...モップ使えば?」
とかあっさりとクールに言い放つものだから、朝っぱらから思いっきりテンションが下がるわけである。
とは言わず、ハイハイと空返事で返す、僕は心優しきお釈迦様。
青い目の猿め、手のひらの上でコロコロと転がしてやる。
それはまだ、悟空が大学の寮に住んでいた頃のこと。週末のたびに僕の狭いワンルームに泊まりに来て、月曜の朝に帰っていくというサイクルで生活していた時の話である。
その月曜は僕の出勤が早く、「じゃあ鍵はポストに入れといて」と言って彼を残し出かけた日があった。そして夜。帰ってきてふとベランダを見ると、一枚の小さな雑巾がピンでちょこんと留められて、静かに風に揺れている。
一体これで何をどうしたんだか。
彼が残して行った唯一の痕跡を見て、「あぁ、帰っちゃったんだなぁ...」、、、この部屋で一人でいた彼の姿を想像して、どう表現したらいいかわからない愛しい感情が止まらなかったっけ。
この話、その後何度となく話しているもので、今では「昔さぁ」と言っただけで「...また雑巾?」と、もういいよその話とでも言いたげな呆れ口調で返事がくる。
確かにね。雑巾を干したから何だ、って話ではあるのだけれど。
顔を見合わせると、お互いに日々増えていっているような気がする白髪の数。もう、本当に前だけ見て進んでいかないといけない、それほどの時間を一緒に過ごしてきたんだなぁ。なんてことを考えながら、僕は今日も雑巾を干すのである。

●ヤドカリ族の部屋探しは、山あり谷ありで尚も続行中。本日も内見の予約で埋まった土曜日である。
●普段、これと言ってわざわざ自分の「立場」というものについて考えることはない。年齢的なこともあり、自分はわりと頼られる存在として仕事をしている。ブランドンにしてもそう、キャリアを積みながら、日々の仕事をしっかりとこなしている。もちろん世の中の景気の浮き沈みに左右される部分は多いけれど、逆にそれは誰にでも言えることであるからして、二人が特段変わった生活をしているという意識は全く無いのである。
ただ、そんな呑気な考えを一気に転覆させられる瞬間がある。
それが、引っ越しである。
世の中目線で見ると自分たちは「それほどまでに信用が無いのか」と、愕然を通り越して途方に暮れてしまうのである。これが会社員であったなら必要が無かったであろう書類を揃えなくてはいけない、日本人なら聞かれることのない質問に答えなくてはいけない。で、なぜ男二人で住むの?と。
知り合った理由から尋ねられた日にはもう「これ面接ですか?」と聞きたくもなるほどで、余計な体力、、、と言うよりも無駄に神経をすり減らす、そんな不動産屋での小一時間なのである。
ただ、である。
★僕の父が彼のことを大変気に入り、日本での身元引受人的な役割になっている。
★僕は自宅で仕事をするので、そこそこ広いスペースを確保したい。
★彼は外国人なので、一人で部屋を借りるのは結構難しい。
★二人で住めば、上の二つは解決する。
幸いにもこれらの話には、全く嘘が無い。ゲイであることを黙るために、いらない嘘で話を固めるようなことをしていないだけ、とりあえず自分の中の良心は保たれているように思うのである。ここが崩れそうなことになるようであるのなら、まぁ最後には「ゲイですけど何か?」の世界へ突入することになるのだろう。どんな反応をするのか、ちょっと見てみたい気もしないでもないニヤリな自分もいるのであるが。
●なんて話ではあるものの。貸す側にとっては、「身元のはっきりした人に、ちゃんと家賃を払ってもらって、キレイに使ってほしい」というのが大前提であるのだからして、そこまでの前段階が面倒なことになるのは仕方の無いことなのだろう...とは思うわけで。突然目の前に現れた人間に「トラスト・ミー」と言われたところで、いくらなんでもそりゃ無理だろ。ということはこちらとしても理解はしているのであるよ。一応。
さぁ、こうしてちょっと距離が縮まったところで、、、
どうです?僕たちは。
それは、二人にとって理想的な物件であった。
あとはドキドキしながら返事を待つのみである。
●キッチンから食器を洗う音が聞こえる。後でやるから置いといて、と言ったのに、である。
●しばらくして、「ゴ」というなんだか鈍い音と、「あぁ...」というため息混じりの声が聞こえてきた。やったか?
「やった」
またやったか?
「またやった」
急いで現場検証へ出向くと、そこには自分の犯行を前に呆然と立ちすくむ犯人と、無残な姿で横たわるまだ若いティーポットがいた。この犯人、実は前科数十犯の常習犯なのである。
●チカラがあるからなのか、ブランドンはこれまでにも数々のものを破壊してきた。棚の引き出し、冷蔵庫、グラス、茶碗、皿、水道の蛇口、etc。ワイングラスは買ったその日にバリンとやり、今回壊したティーポットに至っては、これで3個目の破壊である。前回のティーポットは、お茶を注ぐ時にカップにコツンと当たってしまうのが気になるカタチであった。
危ないから気をつけよう、そう話していた矢先、彼があっけなくトドメを刺してしまったのだった。
なわけで新しく買った今回のティーポットであったが。前回と違って今回は鼻が長いので、
洗う時に気をつけないとなぁ、、、と話していたものの、彼が壊したのはそんな危惧とは全く関係ない
胴体のほうだったのである。何をどうしたらこんな壊し方が出来るのか。突っ込む気にもなれず、ハハハ、またやっちゃったねーと笑うと、ハハハ、またやっちゃったよー、ってあなた。調子に乗る前に反省が先だろ、とそこは秒速で突っ込ませてもらった。
「反省無きところに進歩無し。」
筆で書いて、トイレにでも貼っといてやろうか。そんな勢いである。
が。このピンチヒッターが登場すると、テーブルの上の景色が一変してしまうのが困ったことろである。

土瓶なのである。
くつろぎの家カフェが、一気にどっかの定食屋へ。
早急な対応が迫られている。
なんでもいいが、お願いだからお前さんが洗ってくれるな。
後にも先にも、そのひと言に尽きるのであった。
●我が家ではここしばらく「肉」というものを食していない。今からダイエットを始めて、今年の夏はワイハでビキニを!とかいうヒルズなんとか的な話ではなく、期間限定で食べてはいけない、今はそういう時期なのである。
●一言で言ってしまえば、それは「宗教上の理由」。基本的には、年間を通して毎週水曜と金曜は肉絶ちをすると決まっている。で、それ以外に年に何度か長期間の肉絶ちがあって、今はまさにその真っただ中なのだ。ちょうど折り返し地点を過ぎたあたりで、これはあと1ヶ月ほど続くのである。(これを教会では「断食」と呼んでいるらしい。)
「キミは関係無いんだから、好きなもの食べていいよ」
そう言われたところで、二人ぶん別々の食事を用意するほうがよっぽど面倒なわけで。いいです、あなたについて行きます、と、一体何のための肉絶ちなのか、根っこから全く理解できていないままなんとなーく右に倣っているのが現状だったりするのだ。すみません神様。
●冷蔵庫の奥に、隠すように置いてあったものを見つけてしまった。
マカロンである。昨夜、会社から帰ってくるなり冷蔵庫のとこでガサガサやっていたのは、どうやらこれのせいだったようだ。
●ここでふと思う、そう言えば...な疑問。
以前ブランドンから聞いた話では、この断食、本当は肉だけでなく魚も卵も乳製品もダメなんですよ、アルコールだってダメだし、もちろんお菓子だってアウトなんです、ってことだったはずだ。でもさすがにそれじゃぁまともな生活にならんだろう、ということで、とりあえず肉、アルコール、お菓子、このへんを絶ちますかみたいな話で落ち着いていた記憶があるのだが。
じゃあ、これは...。

思えば今回の断食中、チョコだのケーキだの、お約束ごとをすっかり忘れて結構いろんなものを食べている。今こうしてブログを書いている僕の目の前にも、
「これ会社で食べて美味しかったから、キミにも買ってきたよ」と渡されたクッキーがあるわけで。

なんだかだんだん適当になってきたな、と思いつつ、ここを突っ込むとまた態度を引き締める方向へ話が進みそうなので、、、
黙ってよーっと。
今夜のデザートタイム。冷蔵庫から何ごとも無かったかのように登場する奇跡のマカロンに、必要以上に驚いて、あり得ないほど喜んで、鼻血出しながら大興奮で食べるのだ。ルール改正への希望の芽を、そうやすやすと摘み取られるようなマネは絶対に許されないのである。
●それにしても。
この期間が終わると、やったー!とばかりに必ず焼肉屋へ直行する二人。一体なんのための断食期間なのか、その意味がいまだにさっぱりわからないのだった。
(...やりゃいい、って話じゃないよね。きっと。)
だけど近くにあるんだよ。
だいたいを家の中で過ごす在宅ワーカー。都内在住の40歳。ゲイ・パートナーのブランドン(外国人/ヨーロッパ圏)との生活は、気付けば14年目に突入。地味に静かに暮らしています。
Chibi-log
Suicaでチャージ。

夏の水分補給にと、2Lのスイカを買ってきた。いざ切ってみるとこれ、思っていた以上に大きくて。これだけで腹一杯になりそうだな。
ミネラルたっぷり!はいいけれど、今夜、何度トイレに起きることになるんだろう。週の頭から、いきなり寝不足の予感である。
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